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特集:SDSの読み方 New
その1




特集:PFOAにまつわる法規制など New
その1
その2
その3
その4
その5

新企画:事故はなぜ起こった NEW
その1 次亜塩素酸ナトリウム
その2 ドライアイス
その3 バルブが動かない
その4 混ぜるな危険
その5 ジクオロメタン
その6 容器が破裂
その7 弁から漏れ

連載:続・RoHSをやれと言われたら 

その1 適用除外を使う(1)
その2 適用除外を使う(2)
その3 適用除外を使う(3)
その4 適用除外を使う(4)

連載:また来たchemSHERPA

▸その1 アーティクルフラグ
▸付録 アーティクルフラグ番外編

連載:化学の仕事って? 
▸その1 何の呪文だ
▸その2 名前がわからん

連載:RoHSをやれと言われたら
▶その1 なんだRoHSって
▶その2 法だからね
▶その3 顧客要求

その4 どこまでやれば
▶その5 電気製品じゃないよ


連載:chemSHERPAが来た・・・

その1 うちの材質はどれだ
その2 ファイルが開かない
▶その3 なんだこのSVHCは

連載:リスクアセスメント奮闘記



特集:SDSの読み方

その1
JEMAIのセミナーを受講していただいた方には聞き覚えのあるタイトルだと思いますが(覚えていていただければうれしいのですが)、JEMAIが実施しているセミナーの一部を抜粋してお送りします。はいそうです宣伝です。
 事業所のリスク管理をテーマにした「事業所関連化学物質のリスク管理」というセミナーがあるのですが、おや偶然にも私が講師なのですが、このセミナーの中でSDSの読み方をご紹介しています。
 事業者の皆様は法の対象物質を含む資材を購入する時にサプライヤーさんからSDSを入手して(法的に正確に書くと文字数が増えすぎるので、大まかに書いています)おられますが、SDSに書かれている情報をどう活用していますか?PRTRのデータとして使っている、また安衛法第百一条に従い労働者に周知している、というのが法的に正解ですが、それ以外には現場のリスク管理にどう活用していますか?
 という観点で、セミナーではパワーポイント18枚でご紹介しています。そのエッセンスを連載でお送りします。SDS記載項目は16項目(実質的には15項目)あるので15回分のネタに困らない。という事情もあるのですがそれはそれ。
 なお、特定の化学物質について解説する意図はなく、SDSを現場のリスク管理に生かす考え方の一例を紹介することが目的なので、特定の化学物質/SDSに固定していません。
 SDSの様式は、化管法SDS省令によりJIS Z 7253に適合する努力義務があります。JIS Z 7253:2019ではSDSに記載する16の項目が規定され、それらの項目の番号、項目名及び順序を変更してはならないこととされています。
 それではSDSの情報を現場のリスク管理にどう活用するか、という観点で、項目を一つずつ見ていきましょう。

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特集:PFOAにまつわる法規制など

PFOAにまつわる法規制など(その1)
令和2年9月7日に開催された3省合同会合(1)において、PFOAとその塩の第一種特定化学物質への指定及び輸入禁止製品等に係る措置に関して以下のスケジュールが示されました(2)。
 ・令和3年4月以降公布
 ・令和3年10月以降施行
そこでPFOAについてどんな条約、法規制、自主行動計画などがあったのか今のうちに整理しておきたいと思いまして、特集記事を書きました。その間RoHSネタの連載はお休みします。
PFOAは上述のように、我が国においては化審法施行令の改正により化審法第一種特定化学物質(一特)に指定される見込みですが、その理由はストックホルム条約で廃絶対象とされたからです。したがって、
 ・ストックホルム条約対象物質となる条件とPFOAの経緯(2月号)
 ・ストックホルム条約と化審法の関係(3月号予定)
 ・化審法について(4月号予定)
を知っていれば、PFOA規制の全容を、概略ですが知ることができます。順調にいけば化審法政令公布に間に合うかも。
そんな訳でまずはストックホルム条約について、概要をご紹介します。
ストックホルム条約は正式名を「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants)」といい、POPs条約と略称されます。我が国は2002年に批准し、2004年に発効しています。条約は30か条の条文と、Annex AからGまで7つの付属書とから成ります。Annex A、B、Cは対象化学物質リストで、それぞれ廃絶対象物質(Elimination)、認められる用途にのみ製造・使用が許される物質(Restriction)、非意図的生成を禁ずる物質(Unintentional Production)、が記載されています。Annex DからFは対象化学物質選定基準を規定し、Gは仲裁及び調停の手続きを定めています。
PFOA規制に関しては、締約国の責務を定める第3条と個別の適用除外の運用を定める第4条、対象物質選定基準であるAnnex D-Fを知っていれば、とりあえずは十分だと思います。
まずAnnex Dについてご説明しようと思ったのですが、要点だけ書いてもこれだけで2000文字を超えるので、PFOAの結果だけご紹介します(3)。
Annex Dは当該化学物質がPOPs(残留性有機汚染物質)であると認定する基準ですが、①残留性、②生物蓄積性、③長距離移動の可能性、④有害な影響、の4つがあります。これらはそれぞれさらに細分化された条件があり、例えば②生物蓄積性には(i)水生種での生物蓄積係数5,000以上またはlog Kowが5以上であること、(ii)他の生物種での高い生物蓄積性、(iii)生物蓄積の可能性が条約の対象として検討することを正当化する資料、の3つの条件がありますが、これらは(i)及び(ii)or(iii)という論理式でつながっています。
PFOAの場合は①残留性97年以上、②生物蓄積性5000以下、log Kow=2.69 or 6.3、PFOAの血漿中半減期が長いこと(the long plasma half-life and the persistence of PFOA provide enough evidence to conclude that PFOA bioaccumulates in humans)、③ゼニガタアザラシの肝臓からPFOAが0.8ng/wt検出されたことなど、④動物実験による死亡、体重減、チアノーゼ、肝細胞変性及び壊死が確認されたこと、が提示され、これらの根拠によりPOPRC11においてPFOAはPOPsと認定されました(4)。
大学のレポートでこれを出したら、お情けで単位をもらえるかどうかというところですが、これでPOPRCを通ったんですね。もっとも、POPRC3の頃からPFOSの次はPFOAだというのは分かっていましたから、予定通り、なんでしょうね。
ところで、今日本で主に困っているのはPTFEの分解生成物としてのPFOAです。これは意図して合成したものではないので、ストックホルム条約的にはAnnex Cの非意図的生成に当たると思うんですけど。PFOAはAnnex Aには入ってますがAnnex Cには入っていないので、これって法解釈的にはどうなるんでしょうねぇ。
来月号ではストックホルム条約と化審法の関係についてお送りします。
(1)令和2年度第5回薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質安全対策部会化学物質調査会、令和2年度化学物質審議会第2回安全対策部会、第207回中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会
(2)https://www.meti.go.jp/shingikai/kagakubusshitsu/anzen_taisaku/pdf/r02_02_03_00.pdf
(3) UNEP/POPS/POPRC.11/5
(4) UNEP-POPS-POPRC-11/4.English.pdf
PFOAにまつわる法規制など(その2)
今月はストックホルム条約(以下、「条約」)第3条(締約国の責務)、第4条(個別の適用除外の登録)と化審法について、PFOA規制に関連する箇所の要点をご紹介します。
条約第3条第1項
「締約国は、次のことを行う。
(a)次のことを禁止し、又は廃絶するために必要な法的措置及び行政措置をとること。
 (i)附属書Aの規定が適用される場合を除くほか、同附属書に掲げる化学物質を製造し及び使用すること。
 (ii)附属書Aに掲げる化学物質を輸入し及び輸出すること。ただし、2の規定に従うものとする。
(b)附属書Bの規定に従い、同附属書に掲げる化学物質の製造及び使用を制限すること。」
化審法では、許可を受けなければ第一種特定化学物質(一特)製造の事業を営めず(第十七条)、政令で定める用途以外に一特を使用してはならない(第二十五条)とされてます。これが条約第3条第1項の担保になっています。条約第3条第2項は輸出入規制を詳しく規定しています。
第a項「附属書A又は附属書Bに掲げる化学物質を次の場合にのみ輸入すること。
 (i)第六条1(d)に定める環境上適正な処分の場合
 (ii)附属書A又は附属書Bの規定に基づき締約国について許可される使用又は目的の場合」
これは化審法第二十二条(許可を受けなければ輸入してはならない)が担保しています。
条約第3条第2項第b号は輸出を規制しています。我が国は輸出貿易管理令で輸出承認の申請が必要な貨物を指定しており、ストックホルム条約対象物質は化審法一特として指定されています。
 このように、我が国では法整備及び施行により条約第3条が担保されています。それではもうPFOAについて気にしなくていいのだろうか?それについてはPFOA関連物質に関するBAT報告書の事前相談(1)が経済産業省から公開されている通りです。
 条約第4条は個別の適用除外についての規定です。Annex A,Bに記載されている個別の適用除外を使う締約国は、その旨を条約事務局に通告することを定めています。通告しない締約国では、その個別の適用除外は使えません。
PFOAの使用に関わる個別の適用除外は(簡略に訳したのであくまで参考です)、
・半導体製造工程でのフォトリソまたはエッチングプロセス
・写真フィルム
・作業者保護用発油性または撥水性テキスタイル
・侵襲的埋め込み医療機器
・埋め込まれた消火設備の泡消火剤
・医薬品製造目的のパーフルオロオクチルブロミドを製造する目的でのパーフルオロオクチルヨージドの使用
・高性能フィルター製造のためのPTFEとPVDFの製造
・高電圧伝送線生産のためのFEP製造
・Oリング、Vベルト、車載品生産のためのフッ素樹脂製造
がUNEP-POPS-COP.9-SC-9-12.Englishに記載されています。これらのうち日本が事務局に通告するものがあれば、それが日本で使える適用除外となります。
 令和元年10月18日に公開された中央環境審議会の答申「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約の附属書改正に係る化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく追加措置について(第二次答申)」(2)には、医薬品の製造を目的としたペルフルオロオクタンブロミド(PFOB)の製造のためのペルフルオロオクタンヨージド(PFOI)の使用を認めることとされているので、議論に変更がなければこの個別の適用除外が化審法で認められることになると思われます。
来月号は化審法についてご紹介します。
(1) https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/about/class1specified/pfoa_oshirase.pdf
(2) https://www.env.go.jp/press/107300.html
(本稿はJEMAIの見解ではありません。筆者の個人的な著述です。

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PFOAにまつわる法規制など(その3)
 先月号で締約国の責務を定めた条約第3条をご紹介したところ、「では条約で決まったことは、全ての締約国で守られているんだな。それは安心」という声を耳にしました。
 先月号は、日本では化審法等により条約上の責務が遂行されていることをご紹介したものです。同様に全ての締約国は、日本の化審法のような国内法を整備し施行する条約上の責務がありますが、現実は現実。特に国際社会には、日本人が聞きたくもない現実があります。
 それはさておき、条約第22条第4項にはAnnex A, B, Cの効力発生について「付属書を受諾することができない締約国は文書によって通知する。」という規定があります。また第25条第4項は、この条約を批准するときに、Annex A, B, Cの改正を受け入れる宣言をすることができることを定めています。
 「改正を受け入れる宣言をする」?しなかったらどうなる?受け入れないということですね。つまり条約が禁止したPOPsがその国では禁止されないということです。実際に過去何度も発動されています。ただしこれができるのは、条約加盟時に前述の第25条第4項の宣言をした締約国だけです。日本はこの宣言をしていない(UNEP担当官から聞いた話)らしいので、改正されるAnnex A, B, Cに記載される化学物質の規制
は我が国ではすべて有効です。
 
 さて海外から調達している会社様はこの辺が気になるのではないでしょうか。海外から、POPsに関して安心して調達するためには①その国がストックホルム条約を批准しているか、同等の国内法が施行されている、②条約を批准している場合はAnnexA, B, Cの改正を受け入れている、③条約を担保する国内法または地域法があり、法が恣意的にではなく法の支配によって施行されている、この3つの条件を満たしていることが必要です。その上で、個別の適用除外や認められる用途を使う通告をしたかどうかチェックすることも必要でしょう。
 御社の調達先の国の状況はいかがですか?
 
 おっと化審法の話でした。
 先月号で、経済産業省から公開されているPFOA関連物質に関するBAT報告書の事前相談(1)についてご紹介しましたので、化審法でのBATの扱いをご紹介します。よく知られている例は副生PCB混入に関するBATの適用です。一部の顔料にPCBが微量副生していたことが平成24年(2012年)に判明し、BAT値を超えてPCBを含有する製品に対して行政指導が行われました。
 化審法における特定化学物質の副生は昭和54年(1979年)から議論されており(2)、化審法の立法趣旨は「特定化学物質が製品として環境系に放出されることによる汚染を防止することにあり、本法はいずれも意図的に合成され、販売されることを念頭において制定されている。」しかしながら非意図的に生成されるものについては「特定化学物質の開放形への放出を抑制するために細心の注意を払うことは化学工業者に課された最低限の義務であり、たとえいわゆる不純物であっても工業技術的・経済的に可能なレベル以上に特定化学物質を含有させているものについては、かかる注意義務を解怠してまで当該特定化学物質を含むものを製造していると考えられ、これを特定化学物質の製造と見なして本法による規制を行うこと」とされています。PFOAに関するBATの適用もこの考え方に基づいています。
 
PFOAにまつわる法規制など(その4)
PFOAに関わる政令が公布されたらこの特集もやめよう思っていたのですが、まだPFOA関連物質が残っているので今月もPFOAがらみのお話です。今月はPFOA「関連物質」について、条約と化審法でどんな議論があったのかざっくりご紹介します。
 
 そもそもなぜPFOAだけでなくPFOA関連物質までもが条約対象なのか、それは手続き論的に言えばEUが条約のAnnex A, B or Cに記載することを提案したのが「PFOAとその塩及びPFOA関連物質」だったからです(UNEP/POPS/POPRC.11/5)。
 もちろん条約も提案されてそのままAnnex Aに記載したわけではなく、POPRC(検討委員会)で審議はしました。PFOAの審議結果は2月号でご紹介したとおりですが、PFOA関連物質はどう審議されたのか。
 PFOA関連物質の報告はUNEP/POPS/POPRC.12/INF/5にありますが、PFOA関連物質がPFOAに分解することについて唯一ある定量的な記述は「up to 40% of the initial8:2 FTOH are degraded to PFOA after 7 months.」です。しかしPFOA関連物質全体を規制対象とする根拠は見当たりません。側鎖がフッ素化されたポリマーが環境へのPFOA排出源だともしていますが、やはり定量的な記述は見当たりません。「Studies lasting for several months show a higher formation of PFOA.」など定性的に記述されています。8:2 FTOHについてのみ定量的な実験結果が示されたのちに、「In conclusion, all the presented PFOA-related substances are degraded to PFOA」とされ(何を根拠に”are”と断定できるのか分かりませんが)、「will most probably be degraded in a similar way. 」と結論付けています。”most probably”という結論です。これらの情報をもとにPOPRC11(第11回検討委員会)で審議された結果、PFOA関連物質はPFOAと同様にAnnex A or Bとされるべきであると結論付けられました(POPRC-13/2)。
 これは学術論文ではなく政治的文書なのでこれで通りましたが、もしもこれが論文で私がレフリーだったらリジェクトしますね。って、やめよう。刺される。
 
 と、ここまでは条約の話。ではこれを踏まえて化審法ではどんな議論がされたのか。その前に化審法一特となる要件は何か。まずは法文から見ていきます。
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化審法第二条第二項 この法律において「第一種特定化学物質」とは、次の各号のいずれかに該当する化学物質で政令で定めるものをいう。
一 イ及びロに該当するものであること。
イ 自然的作用による化学的変化を生じにくいものであり、かつ、生物の体内に蓄積されやすいものであること。
ロ 次のいずれかに該当するものであること。
(1) 継続的に摂取される場合には、人の健康を損なうおそれがあるものであること。
(2) 継続的に摂取される場合には、高次捕食動物(略)の生息又は生育に支障を及ぼすおそれがあるものであること。
二 当該化学物質が自然的作用による化学的変化を生じやすいものである場合には、自然的作用による化学的変化により生成する化学物質(元素を含む。)が前号イ及びロに該当するものであること。
    -----------------------------------
長々と引用しましたが、法第二条第二項第二号の前提条件にお気づきでしょうか。「当該化学物質が自然的作用による化学的変化を生じやすいものである場合には」です。PFOA関連物質の分解性についてPOPRCでどんな議論がされたのかしつこく書いたのは、これが理由です。
 
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PFOAにまつわる法規制など(その5)
この特集も5回目になりました。ちゃちゃっと終わらせるつもりが・・・。もうしばらくお付き合いください。
 
先月号ではPFOA関連物質の分解性についてPOPRCでどんな議論がされ(なかっ)たのかしつこく書きましたが、それでは化審法では議論されたのか。PFOA関連化合物に関して開催された化審法関係の審議会は以下のように公開されています。
 
令和元年7月24日
https://www.meti.go.jp/shingikai/kagakubusshitsu/shinsa/189.html
PFOA関連化合物について「POPsとしての要件を満たすことがPOPRCにより既に科学的に評価されている」と説明されています。しかしここに配布されたUNEP/POPS/POPRC.12/11/Add.2ではPFOAの残留性は論じられていますがPFOA関連化合物の残留性には触れていません。残留性はPOPsの重要な要件なんですが。なお、この文書が孫引きしているUNEP/POPS/POPRC.12/INF/5にはPFOA関連化合物のPFOAへの分解については“PFOA-related substances can be biotically degraded to PFOA”と、”can be”で記述されています。
 
令和元年9月20日
https://www.meti.go.jp/shingikai/kagakubusshitsu/anzen_taisaku/2019_03.html
PFOA関連物質の例外的な用途、PFOA 関連物質に該当すると考えられる物質を整理したリストを作成することなどが審議されました。
 
令和2年9月7日
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13375.html
令和元年7月24日の3省合同会合において審議したPFOA関連物質の指定に関する内容は、PFOAに分解しない可能性がある物質が含まれるという指摘があり、各国の規制の方向性を調査するとともに条約事務局等とも調整の上、検討を継続しているという報告がありました。どんな指摘があったのかは、資料がありません。
https://www.meti.go.jp/shingikai/kagakubusshitsu/anzen_taisaku/pdf/r02_02_03_00.pdf
 
 そして令和3年4月22日に、PFOA及びその塩を化審法一特に追加する政令第百四十四号が公布されました。PFOA関連化合物についての政令公布はまだです(5/26時点)。
 令和2年9月7日の会合でようやくPFOA関連化合物の分解性が言及されました。PFOAに分解するかどうかについての言及はありますが、化審法第二条第二項第二号の要件「当該化学物質が自然的作用による化学的変化を生じやすいものである場合には」について触れているのかどうかは不明です。これまでの記事でご承知のように、PFOA関連化合物が一特の要件を満たすには、PFOA関連化合物が1) 自然的作用による化学的変化を生じやすく、それによって2) PFOAを生成することが満たされなければなりません。しかしながらこの後の会合はまだ予定が公開されていないので、どんな検討が行われているのかわかりません。
 
 人と環境に有害な化学物質であれば規制するのは当然です。そのために我が国には化審法があります。国が法を逸脱して規制するなどあり得ないことなので、PFOA関連化合物が法の定めるところによって正しく処置されることを事業者は見届けなければなりません。
 という訳でこの特集は、PFOA関連化合物の検討内容が公開されるまでお休みします。審議内容が公開されたら再開すると思います。多分再開すると思いますが何しろ筆者の関心があちこち向くので困ったもんです。
 
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新企画:事故はなぜ起こった?

「その1 次亜塩素酸ナトリウム」
食品加工場で箱詰め等の作業を行っていたところ、作業開始約1時間後に吐き気等の症状を訴えた。作業開始の約3時間前に密閉された加工場において次亜塩素酸ナトリウムの希釈液を散布し、機械等の洗浄・滅菌作業を行っていた。
[なぜ起こった?]
次亜塩素酸ナトリウムのSDSには危険有害性情報:呼吸器への刺激のおそれ、安全対策:屋外又は換気の良い場所でのみ使用すること、ばく露防止及び保護措置:適切な呼吸器保護具を着用すること、とあります。また、次亜塩素酸ナトリウムは熱や光によって分解して塩素ガスを発生することが報告されています。塩素ガスの許容濃度は0.5ppmととても厳しいものです。そこまで詳しく知る必要は必ずしもありませんが、SDSに「屋外又は換気の良い場所のみで使用」「適切な呼吸器保護具を着用」とあるものを、密閉された加工場で散布したまま作業させたところに原因があります。SDSの注意書きはよく読んで、資材は正しく使いましょう。
余談ですが、イギリスでは食器を洗剤で洗った後、洗剤をすすがずに食器に付着させたままにしている人がいるという話を聞いたことがあります。そのほうが清潔な気がするから、だそうですが、よく似ていますね。
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に、簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
[なぜ起こった?]はJEMAIオリジナルです。
「その2 ドライアイス」
[発生状況]
 社用車の後部荷物室に新聞紙で包んだドライアイス174 kgを積み運搬していたところ、気化した二酸化炭素が車内に充満し呼吸困難となった。事業所に戻った時点で意識が薄く、救急車で病院に搬送され、右小脳出血、急性二酸化炭素中毒、高血圧性脳内出血と診断された。
[なぜ起こった?]
 最近はドライアイスを見る機会が減りましたが、昭和の頃はクリスマスのアイスクリームケーキに冷却剤として3cm角ほどの大きさのドライアイスが付いてきたりしていました。水に入れて白い靄を出して遊んだりしたものです。このドライアイスが174kgになるとどうなるか、という問題です。
 174kgのドライアイス(比重1.56g/cm3)はおよそ畳1枚分の大きさですが、これが大気圧下で全部気化するとハイエース10台分の体積になります。これだけの体積の二酸化炭素が、その一部でも車内に侵入すれば二酸化炭素中毒になる危険性を考えるべきでした。
「え?二酸化炭素で中毒?」と首を傾げたあなた、そうです問題はそこです。JEMAIのセミナーで詳しくご説明していますが、有害性のない化学物質などありません。二酸化炭素は大気中濃度が0.04%(2018年、WDCGG)なので有害性が発現していませんが、高濃度では有害性が現れます。GHS分類結果によればラットのLC50(半数致死濃度)は470000 ppm/0.5h、47%の二酸化炭素濃度に30分間曝露されたラットは半数が死んだわけです。これは酸欠による死ではなく、二酸化炭素の有害性による死であることにご注意ください。
 教科書的にはリスクアセスメントが不十分、作業手順書が不備、などを原因として報告書が処理されるのでしょうが、本質はそこではありません。現場で扱っている資材に有害性があることを認識していなかったことが根本的な原因でした。有害性があると思わなければ注意もしないでしょうし、安衛法対象物質でなければリスクアセスメントもしないでしょう。
 社員が扱っている全ての資材に有害性がある前提で工程管理や社員教育など行うことが、社員を守る第一歩です。
 そういえば、ドライアイスで冷却しなければならないワクチンが実用化されるようですが、もしもお知り合いに医療従事者の方がいらっしゃったら、高濃度の二酸化炭素には有害性があることに注意されるように教えてあげてください。(ワクチンについてとやかく言っているのではありません念のため。高濃度の二酸化炭素に注意してくださいという意味です念のため。)
「その3 バルブが動かない」
[発生状況]
アンモニア水タンクの弁閉止作業の際、ボールバルブが固着していたため、潤滑油をステム(弁棒)に馴染ませ、暫くたった後、1名が液面計本体を手で支え、1名がモンキーレンチをパイプに差し込んだもの(約89cm)でステムを回した直後、ボールバルブのふた部分が破断、脱落し、アンモニア水(濃度約25%)が噴き出し、2名に被液、1名は防液堤内で意識を失い倒れ、5日後に死亡した。同じ作業を行っていた1名は防液堤外に脱出し軽傷、救助にあたった1名も軽傷を負った。
[なぜ起こった?]
アンモニア水は皆さんご存じの通り、腐食性の強い液体です。
http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aegl/agj/ag_Ammonia.pdf
GHS関係省庁連絡会議が平成18年度に実施したGHS分類結果によれば急性毒性(経口):区分4、皮膚腐食性/刺激性:区分1A-1C、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性:区分1、特定標的臓器毒性(単回暴露):区分2(呼吸器系)とされています。
https://www.nite.go.jp/chem/ghs/06-imcg-0557.html
日常語でいえば、危ない液体です。そんな危ないものが流れているバルブが固着していた。でも仕事なのでこれを開けなければならない。さあどうするか。
実は私もこのようなこと(アンモニアを、ではありません。モンキーレンチにパイプをかまして力づくで開ける)をしたことがあります。その時はバルブが壊れる前にパイプが歪んだので、作業を中断して専門家に任せました。流体は確か高圧窒素だったと思います。保護眼鏡はしていましたが、最悪バルブの破片が飛ぶか何かでケガをしていたでしょうね。ということを、後になって気が付いてぞっとしました。
「できません」が通らない職場では、何とかして作業をしようとしてしまいがちですが、ケガをしてまで、ましてや死の危険を冒してまでしなければならない仕事など、民間企業ではあり得ません。「できねえじゃねえよやれよ」が普通なブラック企業もありますが(この事例の会社様のことではありません。私の経験です)、まともな会社にお勤めの皆さんは安全第一でお願いします。
「その4 混ぜるな危険」
[発生状況]
 飲料水浄化設備室に設置されている濾過用薬注ポンプの点検中、次亜塩素酸ナトリウム液を補充しようとしたところ、誤って近くに箱積みされていたポリ塩化アルミニ
ウムを濾過用ポンプに入れたため、塩素ガスが発生して塩素ガス中毒になった。
 [なぜ起こった?]
 「混ぜるな危険」の典型ですね。JEMAIのセミナーでご説明していますが、「機械は壊れるもの、人は間違うもの」が事故防止の鉄則です。この事例では「誤って近くに箱積みされていたポリ塩化アルミニウムを」がポイントです。「誤って近くに」なのか「誤って箱積み」なのか「誤ってポリ塩化アルミニウムを」なのか文意がはっきりしませんが、どれもダメです。 間違えるようなところ(近く)に、間違えるような荷姿(箱積み)で、間違えてはいけないもの(ポリ塩化アルミニウム)を置いたら、そりゃあ間違えるでしょうよ。まず、ポリ塩化アルミニウムのような水に溶けやすいものを水関連施設内に箱積み?箱って段ボールじゃないですよね。床に直置きしてませんよね。作業性の都合で近くに置いたのだとしたら、作業者の安全よりも作業性を優先したことになります。リスクアセスメントというものがわかっていない。「混ぜるな危険」が混ざらないようなフールプルーフができていない。せめて次亜塩素酸ナトリウムとポリ塩化アルミニウムの置き場所・容器の色と形・大きさ・手触りを変えて、取りに行くときに/見ただけで/触った瞬間に/持った時に、間違いに気づくようにしておくのが最低限です。加えて一人作業を禁止して相互確認を徹底する、しつこいくらいに安全教育する、などしなければ現場の安全は守れません。
 たかが水浄化設備で二人作業だと?工数管理というものがわかっているのか!とお叱りがきそうですが、塩素ガス発生を防ぐための工数(つまり作業者の安全を確保するための工数)は計上しているんですか?
 ツッコミどころ満載の事例だから楽だなと思って取り上げましたが、ツッコミどころがありすぎるのも記事にしにくいということを、書きながら実感しました。

→ページ先頭に

その5 ジクロロメタン
[発生状況]
 作業場内にて、内径1.11m、高さ1.115mの円筒状の真空装置部品の内壁を、被災者がジクロロメタンを主成分とする洗浄液を用いて洗浄作業中にジクロロメタンを吸入し、中毒を被災した。当該作業時において、被災者は呼吸用保護具を着用していなかった。また、当該事業主が被災者に対して有機溶剤に対する安全衛生教育を実施しておらず、当該作業に係る作業手順を示していなかった。
 [なぜ起こった?]
 この事例の洗浄対象の汚染物がどんな化合物だったのかはわかりませんが、ジクロロメタンを使うということは有機物が重合して付着して溶けにくくなっていたのかもしれません。洗浄という現象には機械的な洗浄と化学的な洗浄があり、化学的に洗浄する場合は対象物が溶ける液体を使います。・・・え?界面活性ですか?化学に詳しい方がいらっしゃいますね。すみませんが目をつぶっていてください。そこに手を出すと長くなるので。はいそうです言い訳です。
 さてと、この事例ではジクロロメタンでなければ洗浄できない汚染物だったのだろうと思いますが、例えばそれほどでもない汚染物相手に、溶かせばいいんだろうとばかりに大抵のものが溶けてくれる便利なジクロロメタン(とかジクロロプロパンとかトリクレンとか)を使うと中毒のリスクが高くなります。リスクが高いなら高いなりに防護策を徹底してリスクを下げなければいけませんが、この事例では被災者が呼吸用保護具を着用しておらず、また安全衛生教育未実施で作業手順を示していなかったそうです。安全衛生教育をしていなくとも、洗浄中の容器内部は相当臭かったと思うんですが。
 それはそれとして、特にこの事例のような非定常作業の場合、作業工程のリスクを低く設定できるならそれに越したことはありません。仮にジクロロメタンよりは有害性の低いIPAやアセトン(1)などでも洗浄できるならそうするべきです。いやIPAやアセトンであっても、リスクに見合った防護策を徹底しなければならないのは当然ですが。
 
 リスクの高い作業にはそれに見合った厳重な対策が必要です。その分コストもかかるし作業者の負担も増えます。作業工程を設計する段階でより低リスク低コストな工夫をすれば、作業者はうれしいあなたもうれしい会社もうれしいのいいことずくめ、になるといいですね。
 
(1)ジクロロメタン:管理濃度50ppm、IPA:管理濃度200ppm、アセトン:管理濃度 500ppm 
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
[なぜ起こった?]はJEMAIの見解ではありません。筆者個人のオリジナルです。
 
その6 容器が破裂
[発生状況]
 金属表面処理剤の製造工場内で、処理剤仕込み作業の際、硝酸を誤ってぎ酸の容器(ポリエチレン製)へ入れ、この容器を保管場所である劇物置場へ置いていたところ、ぎ酸と硝酸が反応して生成した炭酸ガスにより約1時間後に容器が破裂し、ばく露被災したもの。薬傷3名。
[なぜ起こった?]
 この事故のポイントは本業での故であるということです。JEMAIのセミナーでご説明していますが、「機械は壊れるもの、人は間違うもの」が事故防止の鉄則です。壊れても被害がでないように設備はフェールセーフにする、操作を間違おうにも間違いようがないように設備はフールプルーフにする、もまた事故防止の鉄則です。間違おうにも間違いようがないようにする方法としては、状況は異なりますが例えばタンクローリーから保管タンクへ次亜塩素酸を供給する場合であれば、PACと間違えないようにタンク毎に接続口の形状やサイズを変えておく、などがありますが、この事例のような手作業での間違いを防ぐにはどうすればいいでしょうか。
 ところで皆さん、お店で買い物をして1万円札で支払うとレジの人が「1万円入ります」と言いますが、その理由は御存じですか?
・お客さんとのトラブル防止(「千円札じゃねーよ万札だよ」防止)
・お釣りを間違えないように
・防犯のためレジに大金を貯めないように「1万円入ります」を一定数聞いたら店長がバックヤードへ持っていくなど。らしいです。今ネットで調べました。
 自動化できる工程を自動化し、リスクの高い薬剤を可能であれば代替化したうえで、残った手作業の間違いを防ぐには、こういう相互チェックを欠かさない、しかないでしょう。フールプルーフを徹底するために大がかりな設備にしてしまうと作業性が劣り費用対効果も期待できなくなります。設備操作が面倒になると、私だったらインターロックを解除してちゃちゃっとやっちゃうかもしれません。元も子もない。
 ただし、相互チェックがなれ合いにならない仕組みを作っておく必要があります。ただしそれも仕組みが複雑すぎるとインターロック殺しが蔓延するでしょうね。
 月並みですが教育と習慣化が第一です。間違うとどうなるのか、どんな目に合うのか、よーく理解してもらうことだと思います。そのためには会社側が、現実的な「起こりうる誤使用」を臨場感を持って教育できなければなりません。教育することになっているからと形だけの教育を行って、教育記録をISO14001のエビデンスにするこ
とが目的にならないように気を付けましょう。
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
[なぜ起こった?]はJEMAIの見解ではありません。筆者個人のオリジナルです。

その7 弁から漏れ
[発生状況]
弗化水素酸製造プラントの発煙硫酸ハンドコントロール弁が弁座シート漏れを起こしていたため、手動弁を閉じていたが、作業者が当該弁の弁座シート漏れを失念し、反応器の起用前に手動弁を開放したため、反応器内に発煙硫酸が流入した。この時反応器内で発生した弗化水素酸が外気吸入口から漏洩し、風下でプラント建設作業を行っていた被災者らが吸入したもの。中毒10名。
[なぜ起こった?]
「作業者が当該弁の弁座シート漏れを失念し」というのがわかりません。事故防止を個人の記憶に頼っているということでしょうか?弁座シート漏れがあったのに、交換せずにほっといたということ?フッ酸の製造プラントなのに?交換作業が予定されて
いたらバルブもしくはライン全体に「使用禁止」「交換工事〇月〇日連絡先△△課」ぐらい表示するでしょう普通。手動弁を解放できないように物理的措置もするもんでしょう。失念して手動弁を開放したということは、弁漏れがあることを知りながら放
置して何の手当もせずに運転できる状態にしていたということにしか読み取れません。事故現場を見ずに想像で書いていますので、もしも故障を失念して手動弁を開放せざるを得ない状況であったのなら深くお詫び申し上げます。どんな状況か見当もつ
きませんが。
 こんな管理をする工場が日本にあるとはとても思えないのですが、あったのでしょうね。それにしてもそんな管理下で作業して被災した作業者には同情します。「失念するのが悪いんだ!」とブラック企業なら罵倒されるでしょうが(この事例の会社様のことではありません。私の見聞きした経験上です)、作業者個人の責任にして始末していたら再発防止は遠い夢のまた夢ですね。被災者が被災したのにもそれなりに理由はあるのかもしれませんが、個人の特性によって被災しうるのだとしたら、それは管理されていると言えるのでしょうか。企業はなぜ事故を防止しなければならないのか、考え直す必要があると思います。
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html

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連載:続・RoHSをやれと言われたら

 <その1 適用除外を使う(1)>
「鉛が入っているんですけどどの適用除外が使えますか?」という御相談を何度か受けたことがあります。一瞬唖然とします。その時は幸いにして該当する適用除外がありましたが、マックのバイト中に「どのクーポンが使えますか?」と聞かれているのだろうかとデジャブに襲われました。マックでクーポンが使えなかったら定価を払えばすみますが、RoHSで鉛が入っていて適用除外がなかったら法違反です。これを同じトーンで聞かれると愕然とします。とはいえ使える適用除外があれば使うのは当然の権利です。そこで適用除外の調べ方、使い方についてさわりだけ。
RoHSに限らず、海外法規はできる限り原文で読んでください。翻訳には限界があります。異なる言語間で意味が一致することは、ラテン語系どうしならともかく、日本語と欧州言語とではまずありません。ありうる誤解としては
1.和訳が技術的に不正確
2.英語の係り結びが和訳で正確に/一意的に再現できていないなどがあります。ここで誤解を招きかねない適用除外の和訳の例をご紹介すればいいのですが、刺されるのはごめんなのでやめておきます(刺されるのがいやならこんな連載やめればいいのに、とも思いますが、お困りの方も多くいらっしゃるのであえて連載しています。ご理解賜れば幸いに存じます)。
とはいえまったく例がないと何を言っているのかわからないので、1.の技術的に不正確な架空の例を一つ。架空です。私が今作った架空の訳です。
7(c)-I Electrical and electronic components containing lead in a glass or ceramic other than dielectric ceramic in capacitors, e.g. piezoelectronic devices, or in a glass or ceramic matrix compound.
この “ceramic matrix compound” を、matrixを落として「セラミック化合物」と訳したとすると、セラミックスの結晶構造中に鉛イオンを含むセラミックスという意味になります。これだと結晶構造中ではなくマトリックスの粒間に鉛を含む部品にはこの適用除外が該当しないことになり、使える適用除外が使えなくなります。詳しく知りたい方はOekoが2016年6月に発行したFinal reportのp,460をご参照ください。
2.の架空の例としてAnnex IVの16、
Mercury in very high accuracy capacitance and loss measurement bridges and in high frequency RF switches and relays in monitoring and control instruments not exceeding 20 mg of mercury per switch or relay.
を「非常に高精度の静電容量および損失測定ブリッジ、および監視・制御機器の制御機器の高周波RFスイッチおよびリレー中の20 mgを超えない水銀」と訳したらどうでしょう。(原文をWeb翻訳してさらに私が意図的に誤訳したものです。こういう和訳は見たことがないので例示しましたが、もしも万が一どちらかの企業様で似たような和訳をしておられましたら決して故意ではございません全くの偶然ですひらにひらにご容赦ください。)原文の主語の “Mercury” はその次2つの “ in” にかかり、3つめの “in” はこれらをひっくるめて “monitoring and control instruments” に限定していますが、誤訳ではブリッジが監視制御機器に限定しないように読めます。また、ブリッジ全体に対して20mgを超えるなと厳しくなっているようにも読めます。これは極端な、しかも間違った例ですが、原文を読まずに和訳だけで適用除外を解釈すると、使える適用除外が使えなかったり使えない用途に適用除外を使えると誤解したりするおそれがあります。和訳がおかしいと思ったら、または和訳を読んで自分と違う解釈をする人がいたら、必ず原文で確認してください。
とは言っても普通の日本人が読める言語は日本語と英語ぐらいでしょう。筆者はオランダ語もギリシャ語も中国語もタイ語も全くわかりません。ですので筆者の場合、原文で読める海外法規はEUとアメリカ、カナダなどに限られます。ブレグジット後も英語がEU公用語として残るのかという議論もありますが、マルタもアイルランドも英語は公用語なので残ると思います。残ってほしいです。きっと残るでしょう。残るに違いない。さて、まず読むべきはもちろんRoHS指令のAnnex IIIとIVです。適用除外の読み方について、次号で。
「その2 適用除外を使う(2)」
適用除外を使う際に読むべきは、もちろんRoHS2指令のAnnex IIIとIVです。Webの解説ページは参考にはなりますが、相手は法なので、必ず一次文献を参照してください。
また適用除外は法なので改正や新設が頻繁にあります。常に最新版を読んでください。最新版はEUR-Lex(https://eur-lex.europa.eu/homepage.html)にあります。副題に “Access to European Union Law” とあるように、EU法令のホームページです。日本のe-Govみたいなもんです。
ここで適用除外が確定するまでの法的手続きをおおまかに御紹介します(RoHS2指令第5条)。適用除外を延長したいステークホルダーは、有効期限の遅くとも18か月前までに延長申請します(第5条第5項)。申請を受け取った欧州委員会はDelegatedactによって適用除外を修正(延長/新設/廃止)します。欧州委員会の決定が遅れている(有効期限が過ぎているのに決定が出ていない)場合は、決定が公布されるまで有効(第5条第5項)。決定されるとEU官報が公布されます。
ここで補足説明が2点。
その1、「延長申請する」という言い方について。
この「延長申請する」という言い方が、2010年前後は相当な誤解を招いていました。「申請する」という言葉を日本の市役所の窓口の感覚で受け取った人がこう言っていたのを思い出します。「延長申請すればいいんでしょ?」「本社が代表して申請してください」「いつごろ許可がおりますか?」等々。これを聞いていて私の脳裏に浮かんできたイメージは、・・・電車を降りて駅を出て7分ほど歩いて商店街を抜けるとEUの役所があって窓口に延長申請書があって必要事項を書いてハンコを押して窓口に出すと係の人がポンポンと受理印を押してくれて「手数料は200円です納付はそちらの精算機でどうぞ」・・・いやいやちょっと待てなんだこのマヌケな画は。実際は業界団体加盟企業延べ数十社が約2年かけて取り組んだ、業界をあげての一大事業でした。延長が必要な適用除外数件について海外の業界団体とも議論し、必要があれば連携して技術文書を作成して欧州委員会に送り、技術的な問い合わせに対して何度かメールでやり取りし、EU環境総局へのロビーイングもやりました。Okoからの「明日中に返事しろ」という無理難題に一人で技術文書を(もちろん英語で)作って対応した猛者もいました(ドイツからの「明日中に」メールを日本で昼間に読むと「今日中」になります。困ったもんだ)。技術的にも行政的にも時間的にもどれだけ大変な作業か、やった人でないとわからないでしょう。もっとも内部事情のかたまりなので、当事者以外に話すことはできないのですが。
その2、Delegated actについて。は次号で。
「その3 適用除外を使う(3)」
(前回までのあらすじ)
ステークホルダーからの延長申請を受け取った欧州委員会は、Delegated actと呼ばれる手続きによって適用除外を修正(延長/新設/廃止)します。さて今月号は、そのDelegated actについて。日本では、例えば化審法には法と規則と施行令とその他技術基準などの政省令や通達・告示などがあります。法だけでは運用しきれない、現実に即した細かな規定や修正などを政省令や通達・告示等で運用しています。日本国憲法第四十一条により法を制定できるのは国会だけなので、例えば法第十八条で「許可を受けた者でなければ、第一種特定化学物質を製造してはならない」ことを決めますが、具体的にどんな化学物質が第一種特定化学物質なのかは「政令で定める」(法第二条第二項)として、3省合同審議会等で第一種特定化学物質を決めて政令で公布しています。同様にEUでも、成立した法が適切に施行されるように、欧州議会と欧州理事会は欧州委員会に対して
“delegated act”を実施する権限を与えることができるとされています。Delegated actは委託法令と訳され、・EU法の本質的な部分を変えることはできない・対象、中身、範囲、期間を規定しなければならない・欧州議会とEU理事会は委任を取り消すまたは結果に反対することができるという制限の下で実施されます。RoHS適用除外の延長/新設/廃止もこの仕組みで審議されます。・・・というEU法の手続きよりも、適用除外の延長は今どうなっているのか、に関心がありますよね。今どうなっている、を①どの項目について延長申請されているか、②どの項目に結論が出ているのか、に分けると、それぞれ以下のURLから調べることができます。
① https://ec.europa.eu/environment/waste/rohs_eee/adaptation_en.htm
ステークホルダーが申請して欧州委員会が受理したものがここに記載されます。欧州委員会が受理したものはコンサルで審査されますが、コンサルでの審査が終わったら、Delegated actによって適用除外項目の修正(延長/新設/廃止)が決定し、官報が公布されることで法として確定します。決定した修正を掲載したEU官報は
② https://ec.europa.eu/environment/waste/rohs_eee/legis_en.htm
にあります。このURLを開くと「Exemptions (Annex III and IV)」の項目に、決定した修正が掲載されているEU官報が一覧されています。RoHSだけの官報ではないので、公布されているたくさんのEU官報の中から目的のものを探さないといけません。けっこう面倒です。けっこう面倒ですが、適用除外は法文の一部なので、官報のみが正です。法を相手にしていることに、常にご留意ください。
「その4 適用除外を使う(4)」
10月号でも書きましたが、適用除外項目を和訳で読んで日本語の語彙で解釈することは危険です。どう危険なのか。たとえ正しい和訳であっても、法が意図する技術とは違う解釈をする恐れがあるからです。法が意図する?法は文言の通りに施行されるものだ!という方もおられるでしょう。それはある程度まで正しい。日本では。RoHS指令はEU法であり、さらにRoHS各国法の執行は各国の国家主権行使です。日本の常識で推し量ることは危険です。この場合は、法文に書かれた文言を技術的に正しく解釈して製品を製造し、万一事が起こったら執行当局者に対して法文(つまり適用除外項目の文言)に即して技術的かつ法的に説明する必要がある、とご理解ください。
適用除外項目に記載された文言がどんな技術を指定しているのか理解するためには、OkoのFinal reportを読むことが最良の手段です。例として2002/95/EC(RoHS1の最初のDirective)のAnnexの第7項第4号、”lead inelectronic ceramic parts (e.g. piezoelectronic devices).”を見てみます。古くかつ極端な例ですが、現在の実機に近い例を出すわけにはいかないのでこれを例に挙げています。この適用除外項目の修正を審査したFinal reportはAdaptation to scientific and technical progress under Directive 2002/95/EC, Oko-Institute.V. and Fraunhofer Institute, 20 February 2009です。この98-113ページに、2002/95/EC の7(c) Lead in electronic ceramic parts (e.g. piezoelecronic devices)が2010年のCommission Decisionによって7(c)-I、7(c)-II、7(c)-IIIの3つに分かれた理由が説明されています。残念ながら簡単に説明してもパワーポイント3枚(メルマガにしては多すぎる字数)になるので割愛します。ざっくり言うと、この適用除外を適用できる技術がより具体的に細分化されたものとご理解ください。詳細はすみませんがFinal reportをご覧ください。なんだその不親切な書き方は!すみませんメルマガなので字数が限られています。ご容赦を。


連載:また来たchemSHERPA 

その1 アーティクルフラグ
chemSHERPAがVer.2になってから、アーティクルフラグというものができました。成分情報画面で左上メニュー表示から ファイル→Articleフラグ表示とすると、部品の列と材質の列にArticleフラグが表示されます。
これは一体何なのかとchemSHERPAの入力マニュアルを見ると、19ページにおよそこのようにあります(要約)。
------------------------------------
・REACH規則第3条が定義する”Article”に該当する場合に”on”を選択。
・成分→遵法判断情報変換時に、濃度計算の分母となる質量を当該フラグで判断する。
設定されたフラグを変更したい場合のみ、メニューバーから「Articleフラグ表示」をクリックして、Articleフラグを表示させて変更する。
------------------------------------
つまり何がArticleなのかREACH関係文書をよく読んで、Articleを正しく設定しろ、ということですね。いえこういう言い方をしてはいけません。Ver.2になって、Articleを正しく設定できるようになった。のです。
「REACH規則第3条が定義する”Article”」がわからないと判断できないので、REACH理解の基本であろう「REACH 規則の成形品に関するガイダンス(第4版)」を読むことになります。
https://echa.europa.eu/documents/10162/23036412/articles_en.pdf/cc2e3f93-8391-4944-88e4-efed5fb5112c
何がアーティクルか、例をあげて9ページに渡って英語で説明してあります。
クレヨンがミクスチャーだというのが面白いですね。あれはてっきりアーティクルだと思ってました。他にもいくつか例示があり、判断のためのフローチャートもあります。これらを見て自己責任で(chemSHERPA式に言えば「責任ある情報伝達」)どれがArticleなのか判断して、Articleフラグを正しく設定しなければいけない訳です。
いえこういう言い方をしてはいけません(しつこい)。
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付録 アーティクルフラグ(番外編)
chemSHERPAのマニュアルではアーティクルフラグをどう説明しているかと「アーティクルフラグ」を検索しました。すると何もヒットしません。おいおい。と思ってネット検索したのがまずかった。(「Articleフラグ」ならヒットすることを後で知りました。始めに知っとけ)
いくつか資料が出てきました。
https://chemsherpa.net/news/chemsherpa/?p=1555
https://chemsherpa.net/wp-content/uploads/2019/07/Sympo_chemSHERPA_Ver.2_Overview_20190612_b.pdf
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000110.pdf
これらの資料には、概ねこのように書いてあります。
------------------------------------
基本的に成分情報の末端に定義される「部品(原部品)」が、ファーストアーティクル(アーティクルと判断されるべき最小単位)に該当すると考え、成分情報作成時、自動的にこの「Articleフラグ」を設定する。これを修正したい場合にのみ、メニューバーから「Article フラグ表示」を選択し、Article フラグを表示させて修正する。
------------------------------------
意味、わかります?
文章的には、ファーストアーティクルにArticleフラグがつく、と読めます。しかしアーティクルに「ファースト」という接頭語を付ける意味がわからない。ファーストアーティクルがあるならセカンドアーティクルって何だ?ということになってしまいます。欧州司法裁判所の先決裁定が2015年、上記の資料は先決裁定後の2019年なのになぜ「ファーストアーティクル」なのかわからないし、わからないものをどう判断するのかもっとわからない。困った私は愚直にも、「ファーストアーティクル」を調べてしまいました。丸々1日かけて。しかしchemSHERPA関連資料でもECHAでもIECでも見つからず、思い余ってKemi(あのKemiです)にまで手を出しました(https://www.kemi.se/global/broschyrer/guidance-for-suppliers-of-articles.pdf)。この22ページに
------------------------------------
The first article that contains BBP is the cable.
------------------------------------
という記述がありました。古い資料なのでアーティクルの定義は今とは違うのですが、やっと “first article” というコトバを見つけました。どうやらファーストアーティクルというのはKemiのコトバらしいことはわかりましたが、やはり定義はない。もうお手上げです。
結局、Articleフラグを理解するには「ファーストアーティクル」というコトバを忘れないといけないらしい、ということがわかりました。これで丸々1日使ってしまった。おのれファーストアーティクル。

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連載:化学の仕事って?

その1 何の呪文だ
製造業で化学物質管理業務に初めて就くと戸惑います。特に生産現場からの異動だと、今まで邪険にしていた業務を自分がやらないといけない。これは戸惑います。
新しい業務についたときにどこから手を付けるかは業務によってそれぞれ効率的な入り方がありますが、製造業の化学物質管理業務の場合、まずは法律から入るのも一つのやり方です。
業種に関わらず共通する法(1)は化審法、化管法、水濁法、大防法、廃掃法といったところでしょうか。まあいやがらずに。安衛法も重要ですが総務が主管している場合も多いでしょう。毒劇法と消防法も重要ですが、業種によっては関わらない場合もあります。
とりあえずこれらの法律の法的要求事項を調べて、会社のどの業務にどう関わるのかを調べます。ここまでは前任者が既にやっているはずなので、引継いでいれば(いるはずなので)問題ない(はず)です。
さて業務に取り掛かったら最初に戸惑うのが、「ノニルフェノールの排出量は何キロだ?」「このCAS No.違ってるぞ!」といった呪文攻撃です。のにる何?きゃす?なにがなにやら。
化学を専攻していない方には呪文以外の何物でもないでしょう。エクスペクト・パトローナームッ!!!(2)とでも言ってくれたほうがまだ気が楽かもしれません。
つい「CAS No.」と書いてしまいましたが、実はこの言い方は正しくありません。所謂CAS No.というものは米国化学会の情報部門であるCAS(シーエーエス)が付与、管理しているもので、民間の所有物です。その持ち主であるCASが数年前に、CAS No.と呼ばれているものの正式名は・CAS Registry Number
・CAS RN
・CAS登録番号
のいずれかであると決めたので、CAS No.という言い方は現在では間違いになっています。
とはいっても、いままで「キャスナンバー」と言っていたものを「違いますよシーエーエス登録番号って言うんですよ」とやるのはやめましょう。「なんや自分ケンカ売っとんのか!」と上司のヤクザ性が火を噴くのがオチです。ブラックではないまともな企業だったら「あ、そうなの」と正しい知識が広まっていくのでしょうね。
おっと話がそれました。
次回は呪文対策として、化学物質の名前との付き合い方についてお送りします。
(1)法律の略語
・化審法:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
・化管法:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律
・水濁法:水質汚濁防止法
・大防法:大気汚染防止法
・廃掃法:廃棄物の処理及び清掃に関する法律
・安衛法:労働安全衛生法(「労安法」という人もいます)
・毒劇法:毒物及び劇物取締法
・消防法:消防法(略語ではないですね)
(2)呪文
・エクスペクト・パトローナム:ハリーポッターの呪文「守護霊よ来たれ」

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その2 名前がわからん
すべてのものには名前があり、その名前には意味がある・・・
スピリチュアルな話をしている訳ではありません。化合物命名法のことです。化合物命名法とは、元素や化合物が反応して生成した化合物の名前を付ける文法体系です。
ざっくり化学物質の名前の読み方のことだと思っていただいて結構です。
さていきなりですが、ポリクロロビフェニルという化学物質をご存じですね。知ってるはずです。
な、なんだよそれ知らねーよ!と思った方も多いかと思いますが、「ポリ」はたくさん、「クロロ」は塩素、「ビ」は2つ、「フェニル」はベンゼン環(いわゆる亀の子)から水素原子が1個取れたものを意味します。塩素がたくさん付いたベンゼン環が2つつながっている化学物質のことです。PCBという通り名で知られています。
こんな風に、呪文にしか聞こえない化学物質名ですが、実は意味のある言葉を特定の文法に従って組み合わせて作られています。このルールさえわかればどんな物質名でもその構造がわかり、どんな化学物質なのかわかるようになっています。ドイツ語より簡単です。
もっとも、企業で化学物質管理をするのであれば、化合物命名法をマスターする必要などまったくありません。
「ビフェニル」ん?PCBの仲間か?
「ブロモ」臭素?難燃剤か?
「ホスフェイト」リンの化合物?毒性は大丈夫か?
こんな感じで物質名を見て、どんなリスクがあるか察しが付くだけで十分です。
何の察しを付けるのか。作業者の安全と、法規制の対象かどうか、です。
作業者の安全は、労働安全衛生法第五十七条の三の定めるところにより事業者が実施するリスクアセスメントによって担保されています。そういうことになっています。ですが現場でどこまでリスクを把握して作業しているでしょうか。扱っている資材がアジ化物だとして、それが爆発する可能性を認識しているかどうかで現場の安全性はまったく違ってきます。あるいは資材にホスフェイトが入っているとして、防護の必要性をどこまで認識しているか。手順書に書くかどうかではなく、教育記録を保管するかどうかでもなく、どこまで臨場感を持って認識している/させているか、です。リスクアセスメントをちゃんとやっていることが前提ですが。
一方の法規制の対象とは、使ってはいけないもの(化審法や安衛法など)、使ってもいいが排出を制限するもの(水濁法とか大防法とか)、排出に制限はないがどれだけ排出したか把握しなければならないもの(化管法)、工程で使ってもいいが製品に入ってはいけないもの(RoHSだのREACHだの)、など、法の要求事項によってさまざまな管理が求められます。自社の工程で扱う資材にどんな化学物質が含まれていて、どんな法のどんな要求事項が適用されるのか、明確にしなければなりません。
法とその要求事項については、後ほど。

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連載:RoHSをやれと言われたら

その1 何だRoHSって
 「来月からロースを担当してくれ」と言われたらどうしますか?

 「・・・肉屋?」と思うでしょう。筆者もそうでした。「なぜ職場でトンカツの話を ・・・」と。
 RoHS。ロースと言ったりローズと言ったり、欧州の人がアールオーエイチエスと言っているのを聞いたこともあります。The restriction of the use of certain hazardous  substances in electrical and electronic equipmentの前半の頭文字を取ってRoHSと呼ばれます。 
 交流1000V以下、直流1500V以下で動作する電気電子製品に対する製品含有化学物質規制です。EUから始まって今では中国、インド、ロシア、UAEなど様々な国に拡がっていますが、この稿ではEU-RoHSに限定して話を進めます。
 さてそのRoHS、担当するとなったらまず、法文を読んで法的要求事項を確認するところから始めるのが順当です。法的要求事項が分かったら、次は自分の会社にどれだけのRoHS対象製品があるのか調べることになるでしょう。このとき大事なのは、法の対象なのか顧客対応の対象なのか、その区別を明確にすることです。
 RoHSの最大の要求事項は第4条にあります。「EU加盟国は上市される電気電子製品(EEE)に禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」というものです。RoHS指令の「指令」たる所以がここにあります。この法は欧州委員会がEU加盟国政府に対して指令するものなのでRoHS「指令」と呼ばれます。
 ここから大事なことが2つ読み取れます。一つは、欧州市場に上市されるEEEに対して法的効力を有するのはRoHS指令ではなく、RoHS指令に基づいてEU加盟各国が策定するRoHS各国法であることです。したがって官憲的発想をすれば、欧州にEEEを上市する事業者はRoHS指令だけでなくRoHS各国法も読まなければならないことになります。とは言ってもEU加盟28ヵ国すべての各国法をどこまで読むか、現実的に対処することになるでしょう。ちなみにEU盟国のうち、法を英語で読めるのは英国、アイルランド、マルタの3か国だけです。筆者はエストニア語もオランダ語もチェコ語もその他もろもろ、さっぱりわかりません。
 もう一つは、この法は上市されるEEEに対する法であるということです。欧州市場に上市された最終製品としてのEEEが法の対象であって、そのEEEを構成する個々の部品にRoHSが直接効力を持つことはありません。
 法の対象なのか顧客対応の範疇なのか、その違いによって何が変わるのか、次号でご説明します。
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その2 法だからね
 工業製品を製造・販売するには、どんな種類の製品であれ上市先がどこの国であれ、何らかの法規制を受けます。RoHSが特別視されがちなのは、これまで法規制の対象でなかった含有物質を規制する法律だからではないでしょうか。それにしたところで、食品や衣料では当たり前の規制ですが電機電子業界では驚きでした。
 なぜ驚きなのか。性能を上げるため、省資源化のため、価格を抑えるため、製品寿命を延ばすために使っている鉛や可塑剤などを「使うな」と言われたからです。しかもその理由が、廃棄物が不適切に処理されても環境及び作業者に害が及ばないように、という訳の分からない理由だからです。廃棄物は適切に処理するのが鉄則でしょうに。欧州では違うんでしょうかね。
 とは言っても法は法。昔そのような名言を残して毒杯をあおったギリシャの哲学者がいました。我々も今、毒杯をあおらされている訳です。
 さて前回お話したように、RoHSは上市される最終製品が法の対象です。最終製品製造企業には法が適用されるので、法を守るために設計・調達・製造・品証・発送・販売といった製造業の全ての局面で全工程において管理を徹底します。全工程において管理を徹底、と文字にすれば一言ですが、製造業の実力が如実に現れることです。これがどれだけ大変なことか、やったことのある人でないとわからないでしょう。
 一方、最終製品でない部品にRoHS各国法が直接適用されることはないので、部品の供給業者は供給先企業からの顧客要求だけ対応すればよいことになります。実はここに楽(?)な面と困った面の両方があります。
 楽な面とは、万一規制物質が自社製品に混入しても、法の罰則を受けることはないので売買契約に従って顧客に対応すれば済むことです。場合によっては損害賠償を求められるかもしれませんが、市場からの製品回収等にまつわる億単位の損金発生やEU加盟国の執行当局との対応、風評被害による損失、さらには社内での責任問題や体制再構築などなど、最終製品製造企業が被り得る被害に比べればまだ軽い方だと思います。
 困った面は・・・あまり書きたくないんですが次号で。
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その3 顧客要求
 最終製品を構成する部品や部材、その原料などを製造する川中・川上メーカーにはRoHS各国法が適用されませんが、顧客要求には対応しなければなりません。先月号で「困った面」と言ったのは、顧客の数だけ様々な要求が来て納期までに対応しなければならないからです。

 法が適用される最川下のセットメーカーは法の要求事項を正しく認識しているはずです。さもなければ痛い目に会いますから。最川下に直接納品しているサプライヤーさんも、最川下から正しく要求事項が伝わっているはずです。これが3つ4つとサプライチェーンを遡って経由していくと伝言ゲームになってきます。そのため重要な点が抜け落ちたり余計な情報が加わったりして混乱の元となります。
 例えばRoHS規制10物質を使うなという顧客要求がサプライチェーンを遡って伝言ゲームされるとどうなるか。大元の最川下メーカーが規制10物質を何千という個別のCAS No.に展開して調査しているとして、それが遡るにつれてRoHS規制10物質とい説明抜きで何千というCAS No.の調査票だけが送られてくると、調査を受けた企業はただひたすら調査票を処理することに追われます。理由がわかれば効率化できるところを、理由がわからないのでひとつひとつ一から顧客対応しなければなりません。
 「健康のためラーメンを規制します。ラーメンとはとんこつ、ミソ、しょうゆなどのことです」という解説があれば分かるものを、「とんこつ、ミソチャーシュー、背油しょうゆ、等を規制する」と言われると、「じゃあ、ちゃんぽんもダメなのか?天ぷら蕎麦なら大丈夫か?」と疑心暗鬼になるようなものです。
 これだけでも困るところに、ついでにグリーン調達調査でVOCも調べる、などと言われた日には業務がパンクします。
 こういった、顧客からの「ついで調査」や独自様式調査が何百社も来たら、川中メーカーさんはそれだけで企業の体力を奪われることになります。
 サプライヤーに調査様式を送る企業さんにも都合があるのはよくわかりますが、相手先企業さんの事情にもご配慮をいただければと思います。「我ガ身サヘ富貴ナラバ」と言ったのは応仁の乱の原因を作った日野富子だそうですが、日本全体の製造業の体力が落ちたら、自社の調達にも支障が出てくるのではないでしょうか。
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その4 どこまでやれば
RoHS
担当になると、「どこまでやればいいのさ!」と途方に暮れます。適用除外は
しょっちゅう変わり、対象物質も追加され、社内製品は常に入れ替わり、顧客との取引も常に変わり続ける。本稿の範囲からはそれますが、EU-RoHS以外のRoHSも次々増え、さらに妙な要求事項が増える。対象製品も管理レベルも常に見直し続けなければなりません。責任範囲は増える一方で、さりとて人が補充される見込みもない。一体どこまでやれば・・・。
企業の論理はご存知ですね。「混入させるな。この先ずぅ
~っとだ」が答えです。仕事がなくなる恐れがないことだけが救いです。偉くなって逃げる、という手もありますが。
 では実際のところ、どこまでやればいいのか。対象の深さと広さの2軸で考えることが大切です。深さとは、どこまでのリスクを取るのかという判断です。広さとは、それぞれの対象製品がいくつかあるか、です。ここで「いくつ」の数え方は会社によっても製品によっても異なります。製品シリーズで管理できるのか、型番まで細かく管理するのか、混入リスクと管理の実態を考慮した現実的な判断が求められます。深さについても広さについても、どこまでのリスクを許容するのか決めることがリスク管理の原則です。
 やろうと思えば、徹底した混入管理も可能です。ただし、設計・調達・製造・品証・発送・販売の全ての局面について徹底的に管理すれば、営業利益が損なわれます。その一方、営業利益を優先して混入リスクを緩く管理すれば、事故が起こる確率が上がります。自社がどのようにリスクマネジメントするのか。それは経営層の判断に委ねられることになります。
 なのでRoHS担当になったらまず、・法的要求事項を理解し・自社にどんなリスクがあるのか把握し・どこまで管理するのか数通りの可能性を想定し・どんな事態が起こり得るか、その時何をしなければならないかを整理して、経営層に報告して判断を求めるのが順当です。
 とはいえ2006年にRoHS1が発効して早や13年。もうすでに前任者がやっているでしょうからそれを確認して、現時点の状況に合わせて運用するだけのことです。ただし、過剰な管理をしないためにも、事故を未然に防ぐためにも、こういった見直しは常にやっていなければなりません。
 昔はゼロリスクという変な宗教を信じている人がいて過大な負荷を要求していました。最近はそういう迷信はなくなった(はず)なので、理性的に進めることができるはず、だといいですね。
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その5 電気製品じゃないよ
取引先企業(サプライヤー)さんとRoHSやREACHについて話していると、「うちのは電気製品じゃないから関係ないですよ」と言われることがあります。いやありました。RoHS施行後数年ぐらいは。いやこっちは電気製品なんですがと言っても、「お宅の製品は電気製品でしょうけどうちのは違います」と言われて困りました。
RoHSの法的要求事項は指令第4条にあるように、「EU加盟国は上市される電気電子製品(EEE)に、鉛などの禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」です。上市される最終製品が電気電子製品であれば、それを構成する全ての部材・部品について「鉛などの禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」のです。
この説明に対して今までに言われたこと:
「それはおかしい」
「うちが納入するのは○○ですよ。電気製品な訳ないじゃないですか」
など。他にもありますが書けません。
丁寧に説明すれば最後にはわかってくれますが(こっちは客なので)、不満は顔に出たままです。そんなに理不尽なことを言ってしまったのだろうか・・・いや理不尽なのはRoHSだっ!と自分を慰める羽目になります。
これはまだいい方で、製品カテゴリー違いについては先方も知識があるだけに頑固じゃなくてご自分の主張をはっきり持っていらっしゃいます。
「それはおかしい」
「うちが納入するのは○○ですよ。○○はカテゴリー9って書いてあるじゃないですか」
いえ最終製品のカテゴリーで決まるんですがと言っても
「うちが作る最終製品でしょ?カテゴリー9なんですよ」
えーとどう言えばいいのか。RoHSの最終製品とはEU市場に上市される時点での製品であることを、まず理解していただかないことには話が進みません。製品カテゴリーが違うと使える適用除外が違うことがあるので、理解してもらえないと困ったことになります。欧州に単体で上市する最終製品であればカテゴリー9となる制御機器をカテゴリー3の消費者製品に組み込んで上市する場合などにこういうことが起こったりします。そんなやり取りが昔はありました。
最近はそんな話も聞かなくなってきたなぁと思っていたら、しばらく前ですがとある業界の方が「客先からロースとか言われて調べたんだけどどういうことだ?」と問い合わせに見えられました。ご説明しましたが終始不機嫌そうな表情でした。この法律を作ったのは欧州であって私ではない!ということだけでもわかってもらえたのかどうか。
製造業でRoHSに関わっておられる皆様、心中お察しします。
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連載:chemSHERPAが来た・・・
・うちはカーボンを加工した部材を扱っているんだけど、chemSHERPAの材質コードはどれだ?
・シリコンウェハーに酸化被膜を付けているが材質コードに「酸化被膜」がないぞ?
・ルテニウムめっきを加工しているが、材質コードにルテニウムがない!
現場で材料を扱っていると、chemSHERPAの材質コードに当てはまるものがなくて困ることがときどきあります。
とはいってもお客様の要求によりchemSHERPAデータを作らなければならない。
そういうときはいちばん近いものを選んで、コメント欄にその旨を記載するのが安全です。
・カーボンは、無機物だと思えば「その他無機化合物」を選ぶことができます。
もしカーボンを有機物だと思ってしまうと、解がなくなります。実は無機物と有機物の区別は学術的に明確に定義されていないもののようなので、この際、無機物と思って「その他無機物」を選んではどうでしょうか。・ルテニウムめっきの場合、ルテニウムは周期律表で第5周期第Ⅷ族ですが、同じ第5周期第Ⅷ族にパラジウムがいるので、材質用途「6.(表面処理系)めっき」を選んで材質「S010 パラジウムめっき」を選択してコメント欄に「ほんとはルテニウムなんです」と書くしかありません。
まったくもって困ったものですが、お客様がchemSHERPAデータを出せと言い、工夫しないとchemSHERPAデータを作れない以上、お客様の要求を優先するしかないでしょう。
chemSHERPAというツールはツールでしかないので、ツールとして割り切って使っていくのが現実的だと思います。
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その2 ファイルが開かない
?取引先様からchemSHERPAのファイルが送られてきたけど開かない!
?.shaiファイルが来るって聞いていたのに、何このXMLって?
?chemSHERPAのデータはどこにアップロードすればいいの?
chemSHERPAはJAMPという組織が運用していますが、ユーザー様から様々な疑問が寄せられていると聞いています。ファイル形式などについて多いのがこれら3つです。
昭和生まれの方は昔のパソコンを覚えておられるでしょうか。ブラウン管テレビにキーボードがくっついたような代物です。平成生まれの方は、パソコンを操る天才幼稚園児だったら覚えているかもしれません。令和生まれの人が知っているはずはない。
昔のパソコンは、ソフトとデータが別々のフロッピーに入っていました。使いたいソフトが入っているフロッピー(フロッピーを知らない?・・・そうですか)とデータが入っているフロッピーをそれぞれドライブに入れてから、ソフトを立ち上げ、ソフトのメニューでもう一枚のフロッピーからデータを読み込むという、一手間も二手間もかかる代物でした。その後Windowsというモノが出てくると、Macを使うのと似た感じでファイルをダブルクリックするだけでファイルを開けるようになりました。Macに比べるとまだまだ電子計算機臭がプンプンでしたが。
「ファイルが開かない」とお困りの理由の多くはこれです。昔のパソコンなのにWindowsのようにファイルを開こうとするから開けないのです。まずchemSHERPAというアプリを立ち上げてから、アプリの機能で読みたいデータを読み込めば開けます。Windowsのように.shaiファイルをダブルクリックしてもデータは開きません。
その他のお困りネタについては、たぶん次号で。
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その3 なんだこのSVHCは
chemSHERPAデータを作成していて、ある物質を入力するとSVHC(注1)のフラグが立つことがあります。「あれ?これってECHA(注2)のリストにないのに」と思うことがありませんか?ECHAのリストにないのにchemSHERPAでフラグが立つ。なぜでしょうか。
(注1)SVHC:「この化学物質とっても心配」(意訳)。Substances of very high
concernの頭文字。普通は「高懸念物質」と呼ばれる。
(注2)ECHA:欧州化学品庁(European Chemicals Agency)
chemSHERPAの物質リストはJAMPという組織が年2回作っています。SVHCについてはWebにあるECHAのリストを元に作っていますが、ポイントはECHAのリストでの物質の表記方法です。物質を個別名ではなく化合物群で記載している場合があります。
「化合物群」?なにそれ?と思いますよね。
例えば
・個別名称:豚骨ラーメン、味噌ラーメン、タンメン、チャーシュー麺、など
・群名称:ラーメン
と思えばわかりやすいかと思います。
同様にECHAのCandidateリストには、例えばPerfluorononan-1-oic-acid and its sodium and ammonium saltsという群物質名が載っていますがCAS No.はありません。しかしリストの右側には、この群物質のSupport documentのリンクが貼られています。このリンク文書を開くと、個別の物質を特定するためのCAS No.が3つ載っていることがわかります。この3つのCAS No.がchemSHERPAの物質リストに収載されるので、一見するとECHAのリストにない物質にフラグが立つように見えるのです。実際には、ECHAのリストからリンクされる文書に載っている個別物質を載せているので、ECHAのリストとchemSHERPAの物質リストは一致しています。
例えて言うと、リストには「ラーメン」としか書いていないのに、リンク文書には「とんこつチャーシュー」「みそバターコーン」「タンメン」「炙りチャーシュー」などが並んでいるような状況です。これらを一つの表にまとめると、「ラーメン」に加えて「とんこつチャーシュー」「みそバターコーン」「タンメン」「炙りチャーシュー」などが並ぶことになります。
リストに載っていないように見える「とんこつチャーシュー」にラーメンフラグが立つ理由、おわかりいただけたでしょうか。
とはいえ、いちいちECHAのSupport documentまで見てご自分で確認するのは大変でしょう。chemSHERPAというツールはただのツールなので、フラグが立ったら立ったで、ツールとして割り切って使っていくのが現実的だと思います。
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連載: リスクアセスメント奮闘記

初めまして、某中小電気メーカで化学物質管理を担当している(やらされている?)J太です。大学では工業化学を専攻しながら電気メーカに就職して、使い走りのように、やれ素材の開発やら、安全対策やら、調達材料管理やら、RoHS騒ぎの時なんて化学系というだけで担当に回されて過酷な労働(今ならブラック企業間違いなし)をこなしたのも、今思えば若かったから。今では、化学物質管理と安全衛生委員長のお役が回ってきた中年技術者です。
(登場人物は架空のもので実際の人物、組織と関係はありません)

その1 いきなりやれと言われても
2014年に安衛法が改正されリスクアセスメントが義務になるお知らせが届きました。嫌な予感がしたのですが、やはり「お前化学系だろ、じゃあリスクアセスメントの担当だから」と上司からの命令。
・・・えええぇ、リスクアセスメントって何? そんなの大学の授業でやったことないし、化学系といわれても材料化学専攻だからリスクのことなんかわかんない。
仕方がないので、厚労省がやってる無料セミナーに行ってみた。胆管癌が発生した作業場があったことからリスクアセスメントが義務化されたとか、リスクアセスメントのやり方がいくつかあることは分かったけど、自分の会社でどのようにすればいいか皆目イメージがわかない。しかし、施行の期限は刻々と迫ってくるし、上司は「もし労基署が来て、何か言われたらお前の責任だからな」なんて脅されるし、相談相手もいない孤独な化学屋はパニックになりそう。誰か救いの手を・・・・・
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その2 SDSは知ってるけれど
2015年に厚労省からリスクアセスメントの指針がでました。これにはリスクアセスメントの流れが書いてあるので、これさえあれば大丈夫・・・と信じたい。
まずは、自社で使っている化学物質の危険性と有害性を調べることから始めました。そのためにはSDSがそろっていなければいけません。社内で薬品を購入するときは手続きが必要で、いつ何を買ったかはわかります。そして、化学物質なら販売者からSDSが一緒に届けられるはずなのですが、現場に行ってSDSを確認してみると、その実態に愕然。SDSがついてこない原材料がごろごろ。厚労省の調査によるとSDSがきちんと配付されているのは6割程度だとか。しかも、現場にあるSDSを見てみると、発行日がずいぶん古いものや、輸入品だと言って英語版のSDSしかないものがあったりして、まとめるだけでうんざりする作業です。
とりあえずできるとこらから手を付けようと、使用量の多い原材料からSDSをそろえていくことにして販売者にSDSを要求。すぐに持ってくるところもあれば、英語版しかないというところ、HPに書いてるから読んでというところや、SDSは準備してないなんてところまであります。無いものは自分で調べるしかない、結局人海戦術で集めるしかないことがわかりました。これって、すごい工数かかってるけど、生産性につながるわけじゃないので上司の目が怖い・・・

化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000098259.pdf
職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000580337.pdf
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その3 どれがリスクアセスメント対象なのさ?
苦労して主なSDSは集めることができました。このSDSのどこを見ればいいの? 今までSDSはザクッと見て、発がん性や毒性が強くて、やばそうなものだけを作業者に伝える程度だったので、あまりじっくり見たことがなかった。
色々調べてみると、2.危険有害性の要約、8.暴露防止および保護措置、11.有害性情報 あたりに書いてあるらしい。しかし、難しい・・・LD50、TWA、STEL、毒性試験の内容は材料化学の人間にはさっぱりわからない。しかし、上司に言ったら「お前化学系だろ!勉強しろ!」と一蹴。やっぱり、自分で勉強するしかないか、電気会社の化学系ってつらいな。
でも、ちょっと待て、その前にどの化学物質がリスクアセスメントの対象かを調べないと無駄な作業になると、リスクアセスメント対象物質のリストを見てみました。
安衛法改正時に対象物質は640物質だと説明されていたので、そのリストにあるものだけリスクアセスメントの対象にすればいいと考えていたのですが、自社のSDSリストと比べてみると何か違和感が・・・・
例えば、酢酸銅を使っているんだけど、640物質のリストには酢酸銅の名前はない。じゃあ、酢酸銅はリスクアセスメントしなくていいと思ったら、そうではないらしい。640物質のリストには「銅およびその化合物」なんてのがあって、酢酸銅はその中に含まれるとのこと。
えええぇ、話が違うじゃん。じゃあ、いったいどれだけの物質があるの?この答えは調べてもなかなかわかりませんでした。やっと見つけた資料によると、リスクアセスメント対象物質の673物質(2020年現在)を化学物質ごとに展開すると4000物質以上になるとのこと。・・・ううぅ目まいがしてきた。
しかし、神の助け、うまい見分け方があるらしい。
SDSの15.適用法令に「労働安全衛生法-名称等を通知すべき危険物及び有害物」と書かれていればリスクアセスメント対象とのことだ。
SDSの束から、この文言が書かれているものを探すと、かなり減った。しかし気をつけなければいけないのは、古いSDSや英語のSDSには書かれていない。怪しいものは、厚労省のHP「職場の安全サイト」で調べることにした。少しは化学系らしくなってきたかな?

職場の安全サイト
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
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その4 全部やらなくていいんだ

ようやく主なSDSをそろえることができたけど、その数250くらい。作業場が15なので単純計算すると3750回のリスクアセスメントをすることになる。レポートまで含めて1回に30分かかるとすれば、合計1875時間。これって、私1人の、1年間の総労働時間より多い。とてもやってられない。いったいどこまでやればいいの?
そんな時に知人からいいことを教えてもらった。リスクアセスメントの実施は、義務になっている作業と努力義務の作業があるとのこと。新しい材料を使ったり、新しい作業を行うときは必ずリスクアセスメントをする必要があるけど、今までと同じことをやっているなら努力義務で、やらなくても罰則はないとのこと。
これはラッキー。開発部門のように新しい材料を使うところはやらなければいけないけれど、製造部門でルーチン業務を行っているところは後回しでいい。かなり気が楽になった。でも、努力義務であっても、何もやっていなければ改善命令が出るらしい。要するに、優先順位をつけて、できるところからやっていけばいいってことか。
これで、ようやく計画が立てられる。250物質のうちトルエンなど作業環境をしている物質は、その結果を使えばいいのでやらなくていい。残りの半分くらいは製造部門で昔から使っているので後回し、製造部門で新しく使い始めるものが年間10物質ほどなので、それらを優先1とする。開発部門は、常に新しいものを使うけど、使用量は少ないので優先2、そのあと後回しになったものをやる。大まかな方針は決まった。

その5 リスクアセスメントをやること自体がリスク?
SDSがそろって、対象物質も絞り込みました。あとは指針通りにリスクアセスメントやればいい、やれやれ先が見えたと安心してしまったのが大きな油断だと分かったのが数か月後でした。
セミナーや指針で紹介されているリスクアセスメントツールであるコントロール・バンディングを使ってみようと考えました。コントロール・バンディングは、職場の安全サイトに行けば無料で使えるリスクアセスメントツールです。日本語だし、入力も少なく簡単そうです。これなら自分でもできる。さっそくリストを片手に入力を始めました。使用量の多いものから順にやってみましたが、いきなり問題が発生。トルエンやアセトンを使って洗浄している作業場のリスクが高いという結果が。何とリスクレベルは4という、4段階で最も高いリスクという結果がでました。えええぇ、そんなバナナ。
さらに、リスク低減措置として、化学物質の使用の中止、代替化、封じ込めの実施と表示されました。使用中止といわれても、仕事が止まっちゃう。代替化と言われても、コストや性能から簡単には変えられない、封じ込めをするには大規模な設計変更が必要で多額のコストがかかる。簡単にできる措置ではありません。
しかも、アセトン、トルエン以外にもリスクが高い化学物質が多数出てきました。ええ?うちの作業場ってそんなに危険な作業してるの?
安全衛生委員会でも議論しましたが、なかなか結論がでません。有機溶剤で作業環境測定を行っているものは、その結果を使えばいいのですが、作業環境測定で第1管理区分になっている有機溶剤が、コントロールバンディングでリスクレベル4になるのは納得できません。
グレーゾーンの化学物質をどうするのか?すべての物質について作業環境測定をしなければならないのか・・・そんな予算取れそうもない。安全を考えて、高性能な局所排気装置を買わなければいけないのか・・・これも上司に怒られそう。または、保護マスクや保護手袋を作業者に義務付けるのか・・・現場からブーイングがでそう。
本当にリスクが高いのであれば、作業者の健康管理のため低減措置はお金がかかっても実施しなければいけませんが、この結果から所長に提言する勇気はありません。
リスクアセスメントを実施すると、ますます問題点が明らかになってきます。もしかしたら、リスクアセスメントをやること自体がリスク?
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その6 リスクアセスメントツールはいろいろあるけれど
厚労省職場の安全サイトに多くのリスクアセスメントツールが紹介されています。
どれがお勧めですか?とセミナーで担当官に聞いてみたけれど、厚労省ではどれを勧めているわけではなく、自社の状況にあったものを選んでほしいとのこと。そんなこと言われても、どれがいいのかわからないから聞いてるのに・・・
しょうがないので、自社のリストを片手にツールを一つずつ試してみた。その感想を書いてみます(あくまで個人的感想です)

職場の安全サイト 化学物質のリスクアセスメント実施支援
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07.htm

コントロール・バンディング
職場の安全サイトで簡単にできる。簡単さは断トツなので、これで済むものなら済ませたい。でも、トルエンやアセトンなどはリスクが高めに出ることが多く、リスクレベル4S、使用の中止、代替化、保護巣の使用なんて厳しい対策が表示される。換気装置を設置して、作業環境測定で第1管理区分の作業場でもリスクが高いと出るのは納得できない。
このように操作が簡単なツールは、暴露の推定精度が高くないので、安全のためどうしてもリスクは高めにでるようだ。

作業別モデル対策シート
チェックリストでどこにリスクがあるかを知って、その対策方法が書かれているシート。中小企業向けで、ほとんど科学の知識のない人用の啓蒙書のようなもの。まあ、やらないよりはましだけど、とてもリスクアセスメントとは言えないと思った。

CREATE-SIMPLE
コントロール・バンディングでは対応できない事業者のために、厚労省が開発したツール。かなりきめ細かな条件を入力できるので、コントロール・バンディングより暴露濃度の精度は高い。結構使えるなという印象。
しかし、欠点は、やたら入力項目が多くて時間がかかること。SDSを見ればわかることを事細かく入力しなければならない。バッチ処理にも対応していないので、うちのように250物質15作業場なんて場合、どれだけ時間がかかるかわからない。名前はSIMLEだけど、操作はSIMPLEじゃないな。厚労省さん、もう少しがんばってよ。
検知管を用いた化学物質のリスクアセスメントガイドブック
注射器のようなものの先にガラス製の検知管をつけて、業場の空気を吸うことで有機溶剤などの濃度が測定できる。その結果をまとめるためのガイドブック。直接測定するので精度は高い。確かに、いいんだけど、検知管の種類が限られていて、うちで使っている250物質全部に対応しているわけじゃない。複数の溶剤を使っていると交差反応で精度が落ちる、それに時間とコストがかかる。全部を検知管でやることはできないけれど、他の方法でリスクが高いと出たものについて、その確認(ウラをとる)のためのような使い方になるかな。

業種別のリスクアセスメントシート
塗装、印刷、めっきに限ったリスクアセスメントシート。うちは対象外なので調べていない。

ECETOC TRA
欧州REACHに基づく化学物質の登録を支援するために開発された、定量的なリスクアセスメントが可能なツール。無料でダウンロードでき、パソコンがあればだれでも使うことができる。マニュアルも職場の安全サイトにある。しかし、英語版しかないし、上級者用なんて書かれているので使うのに躊躇する。
でも、他の方法では自分の思ったことができないので、気合を入れて使ってみることにした。ダウンロード自体は簡単にできたし、ECETOC TRA自体はEXCELのワークシート(ブック)なので会社のパソコンに入れると普通に立ち上がった。問題は、ここから。どこに何を入力するかをマニュアルとにらめっこで入れていった。説明が難しいところがあったり、日本の規格と違うところがあったりしたけれど、何とか入力が終わってマクロボタンを押すと、あっという間にリスクアセスメント結果が表示された。
ふうぅ、お疲れ様って感じ。でも、結果は作業環境結果とほぼ同じで、正確な暴露濃度の推定とリスクアセスメント結果が表示された。すごいじゃん、これ使いたい。ECETOCさん、日本語版作ってくれない・・・無理か。
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その7 いいリスクアセスメントツールを見つけた
リスクアセスメントツールをいろいろ使ってみたけれど、使い方はやさしいけれど精度の悪いもの、精度はいいけれど使い方が難しいものと、なかなか自分に合ったものが見つからないと悩んでいた時に、同業者の知人から産環協にいいツールがあるらしいということを聞いた。
聞くところによると、ECETOC TRAが日本語で使えるらしい。えぇぇ?、自分が欲しかったものだ、産環協って公害防止管理者の試験だけやってる協会じゃないんだ。
東京で開催されたセミナーに参加してみました。講師は、元化学物質研究機関の人で化学物質の安全性やリスクの専門家らしい。産環協会員からリスクアセスメントの問い合わせが多かったので、会員企業のためにこのツールを開発したとのこと。
ツールの名前は「TRA_Link」。ECETOC TRAを改造したものではなく、独立したアプリでECETOC TRAと連動して動くらしい。
ECETOC TRAで、化学物質名、蒸気圧、分子量、使用量、作業内容、保護具の種類など、あちこちに英語で入力しなければならないけれど、TRA_Linkはそれらの項目を日本語で簡単に入力できる。しかも、プルダウンで条件を選ぶことができるし、単位の返還も自動でやってくれる。あとは、マクロボタンを押すと、パラメータが英語に変換されてECETOC TRAに送られ、ECETOC TRAがリスクアセスメントを行い、その結果がTRA_Linkに帰ってくるという仕組み。つまり、ECETOC TRAが使えなくても、パソコン上にあるだけでいいということ。これってすごくない?
ここまででもすごいけれど、何とバッチ処理ができるらしい。同じ作業場で複数の化学物質を使っている場合、一覧表に化学物質のリストを作っておけば、最高250物質を自動でリスクアセスメントしてくれる。さらに、驚いたことに、厚労省通達の様式でレポートまで作ることができる。
試しに、実際の作業場で使っている化学物質を20物質くらい入力して処理してみると、ほんの数分でリスクアセスメントが完了し、レポートを作ることができた。しかも、すべてリスク特性比が1以下でリスクは低いので、リスク低減措置の検討も不要、つまりリスクアセスメント完了ということになった。すごすぎる。産環協さんありがとう。
(登場人物は架空のもので実際の人物、組織と関係はありません)
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JEMAIメルマガの例(全文)
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化学のおしごと(月刊JEMAI) -2020年1月号-
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新年あけましておめでとうございます。
JEMAI(産業環境管理協会)です。今年もよろしくお願いします。
普段の業務で化学物質管理について疑問があるとき、お力になれるメルマガ。を目指しているメルマガです。
(今月号目次)
  1.今月の締切間近セミナーご案内
  2.目につく法規制、気になる審議会等(水銀条約COP3、化審法関係審議会)
  3.官報ダイジェスト(ロッテルダム条約、日本産業規格、一般高圧ガス保安規則、ポリ塩化ビフェニル廃棄処理基本計画変更)
  4.連載:RoHSをやれといわれたら 「その5 電気製品じゃないよ」
5.産環協からのお知らせ
6.編集後記
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本メールは、一般社団法人産業環境管理協会(JEMAI)の化学物質管理に関するセミナー受講や資料のダウンロード等を行っていただきました皆様にお送りしています。
配信先の変更・停止につきましては、お手数をおかけいたしますが「配信不要」または変更先を本メールに返信いただくか、下記アドレス宛てにお送りくださいますようお願い申し上げます。
chemicals@jemai.or.jp
メールアドレスリストの修正は随時行っておりますが、修正が間に合わずに配信不要の御連絡をいただいた方にお送りした場合はご容赦ください。
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【1.今月の「締切間近セミナー」】
残席わずか[実践] 担当者のためのSDS/GHSラベル作成の基礎と実践(東京:1月22日(水))
残席わずか[基礎講座Ⅰ] 製品中の化学物質管理する基本的な考え方(大阪:1月28日(火))
受付中[規制対応Ⅱ] これからの事業所関連化学物質管理(東京:2月4日(火))
受付中[基礎講座Ⅰ] 製品中の化学物質管理する基本的な考え方(東京:2月5日(水))
受付中[実践] 担当者のためのSDS/GHSラベル作成の基礎と実践(大阪:2月6日(木))
受付中[管理体制Ⅰ] 評価する側から見た化学物質管理のポイント(東京:2020年2月6日(木))、(大阪:2月7日(金))
受付中[規制対応Ⅰ-1] 1日丸ごと化学物質管理漬け:EUの規制(REACH/RoHS/CLP)を中心に(東京:2月12日(水))
受付中[規制対応Ⅰ-2] 一日丸ごと化学物質管理漬け:日米中等の規制(REACH/RoHS系)を中心に(東京:2月13日(木))
他にも多種多様なセミナーがあります。【4.産環協からのお知らせ】をご覧ください。

【2.目につく法規制、気になる審議会(1.水銀条約COP3結果、2.化審法関係審議会)】
1.水銀条約COP3結果(12月2日)
水銀に関する水俣条約第3回締約国会議(COP3)の結果が環境省から報道発表されました。
https://www.env.go.jp/press/107499.html
主な結果として以下7点が掲載されました。
(1)世界税関機構で定める製品コード
(2)付属書A及びBの見直し
(3)水銀の放出
(4)汚染された場所の管理に関する手引書
(5)水銀廃棄物の閾値
(6)条約の有効性評価
(7)運営にかかる事項
COP4は2021年10月から11月にインドネシア・バリにて開催される予定です。
 [JEMAIコメント]
日本の事業者で水銀条約が関係するとしたら、付属書A(水銀添加製品)、B(水銀又は水銀化合物を使用する製造工程)と水銀廃棄物の閾値ぐらいではないでしょうか。
付属書Aについて、歯科用アマルガムを追加する修正提案がアフリカの6ヵ国から提出され、代替製品の有無や健康への影響について条約事務局が報告書を取りまとめることになりました。
条約では水銀廃棄物を水銀/水銀化合物、水銀使用製品廃棄物、水銀汚染物の3種類に分類していますが、このうち水銀/水銀化合物と水銀使用製品廃棄物については閾値を設定しないことが合意されました。これらについて、COP4までの期間中に専門家グループが検討を行うことが決定しました。
日本の事業者への影響は・・・なさそうですね。
ちなみにですが:
先日テレビでニュースを見ていたら、アナウンサーが「国連の会議であるCOPが開催されました」と言っていました。
「・・・どのCOPだ?」と思ったのは私だけではないと思います。
この分野で仕事をしている人には常識ですが、国際条約の締約国会議をCOP(Conference of the Parties)といいます。ロッテルダム条約であれ水俣条約であれストックホルム条約であれ、すべての国際条約にCOPがあるので、「COPが開催されます」は報道としては意味がありません。ニュースの中でCO2排出量の話をしていたので気候変動枠組条約のCOPだとわかりましたが、マスコミの人というのは国際条約は一つしかないと思っているようですね。日本の報道は国際常識がないというのはもはや常識ですが、こういった些細なところで劣化が進んでいくのだと思います。
2.化審法関係審議会(12月23日)
「令和元年度第9回薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質案円対策部会化学物質調査会、令和元年度化学物質審議会第5回安全対策部会、第201回中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会 開催通知」が各省庁Webサイトに掲載されました。
化審法第一種特定化学物物質に指定することが適当とされたPFOAとその塩及びPFOA関連物質についての所要の措置等について審議が行われます。
https://wwws.meti.go.jp/interface/honsho/committee/index.cgi/committee/30585

【3.官報ダイジェスト】
・令和元年12月4日(本紙 第145号)
外務省告示第234号
平成10年9月10日にロッテルダムで作成された「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続きに関するロッテルダム条約」の付属書Ⅲの一部は、同条約第22条5の規定に従い、次のように改正され、その改正は、令和元年9月16日に効力を生じた。
付属書Ⅲの表中商業用ペンタブロモジフェニルエーテル(テトラブロモジフェニルエーテル及びペンタブロモジフェニルエーテルを含む)の項の次に次のように加える。
ヘキサブロモシクロドデカン  25637-99-4、3194-55-6、134237-50-6、
134237-51-7、134237-52-8  工業用化学物質
・令和元年12月20日(本紙 第157号)
制定された日本産業規格
ディスプレイのぎらつき度合の求め方   C1006
プラスチック-エポキシ樹脂-硬化度の求め方-第2部:フーリエ変換赤外(FTIR)分光光度計による測定方法   K7148-2
情報技術-物品管理用RFID-RFIDエンブレム  X6352
・令和元年12月20日(号外 第190号)
経済産業省令第五十四号 高圧ガス保安法第十二条第一項の規定に基づき、一般高圧ガス保安規則の一部を改正する省令を次のように定める。
第十一条2[新設] 前項第五号ただし書の場合において、貯蔵する高圧ガスが液化ガスであるときは、質量十キログラムをもって容積一立方メートルとみなす。
・令和元年12月24日(号外 第192号)
ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法第六条第一項の規定に基づき、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画を変更したので、同条第七項の規定において準用する同条第六項の規定に基づき公表する。
(JEMAI補足)
塗膜、感圧複写紙、汚泥をはじめとする可燃性のPCB汚染物等について平成30年11月より調査が行われ、感圧複写紙や汚泥等の存在が新たに発覚したことなど、特別措置法に基づく届出(平成30年3月31日時点)に反映されていないものが存在するとされています。
道路橋等の鋼構造物の塗膜からもPCBが検出されていますがこれらのPCB含有塗膜の大部分は低濃度PCB廃棄物となると考えられています。平成30年11月より行われた各省庁、地方公共団体及び民間事業者によるPCB含有塗膜に係る調査により、実態が明らかになると考えられています。

【4.連載:RoHSをやれと言われたら】
「その5 電気製品じゃないよ」
取引先企業(サプライヤー)さんとRoHSやREACHについて話していると、「うちのは電気製品じゃないから関係ないですよ」と言われることがあります。いやありました。RoHS施行後数年ぐらいは。いやこっちは電気製品なんですがと言っても、「お宅の製品は電気製品でしょうけどうちのは違います」と言われて困りました。
RoHSの法的要求事項は指令第4条にあるように、「EU加盟国は上市される電気電子製品(EEE)に、鉛などの禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」です。上市される最終製品が電気電子製品であれば、それを構成する全ての部材・部品について「鉛などの禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」のです。
この説明に対して今までに言われたこと:
「それはおかしい」
「うちが納入するのは○○ですよ。電気製品な訳ないじゃないですか」
など。他にもありますが書けません。
丁寧に説明すれば最後にはわかってくれますが(こっちは客なので)、不満は顔に出たままです。そんなに理不尽なことを言ってしまったのだろうか・・・いや理不尽なのはRoHSだっ!と自分を慰める羽目になります。
これはまだいい方で、製品カテゴリー違いについては先方も知識があるだけに頑固じゃなくてご自分の主張をはっきり持っていらっしゃいます。
「それはおかしい」
「うちが納入するのは○○ですよ。○○はカテゴリー9って書いてあるじゃないですか」
いえ最終製品のカテゴリーで決まるんですがと言っても「うちが作る最終製品でしょ?カテゴリー9なんですよ」えーとどう言えばいいのか。RoHSの最終製品とはEU市場に上市される時点での製品であることを、まず理解していただかないことには話が進みません。製品カテゴリーが違うと使える適用除外が違うことがあるので、理解してもらえないと困ったことになります。欧州に単体で上市する最終製品であればカテゴリー9となる制御機器をカテゴリー3の消費者製品に組み込んで上市する場合などにこういうことが起こったりします。そんなやり取りが昔はありました。
最近はそんな話も聞かなくなってきたなぁと思っていたら、しばらく前ですがとある業界の方が「客先からロースとか言われて調べたんだけどどういうことだ?」と問い合わせに見えられました。ご説明しましたが終始不機嫌そうな表情でした。この法律を作ったのは欧州であって私ではない!ということだけでもわかってもらえたのかどうか。
製造業でRoHSに関わっておられる皆様、心中お察しします。
※お知らせ
次回より、新連載「化学の仕事って」が始まります。これまでは製品系に特化した連載でしたが、次回からは製品系・事業所系に関わらず、製造業の現場で扱う化学物質の管理業務全般について、業務に係る法やその解釈・運用などについてお送りします。
連載テーマがころころ変わる?そういえばそうですね。その理由は単純で、筆者が飽きっぽいからです。いえそうではなくて、読者の方々に常に新しい情報をお伝えするために、いろいろなテーマを模索しているのです。
これまでは製品管理の御担当に限定した連載でしたが、次回からは事業所管理の御担当にもお楽しみいただける連載となります。これは、と思う記事があれば、事業所担当の方々に転送していただければ幸いに存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 【5.産環協からのお知らせ】
[基礎講座Ⅰ]製品中の化学物質を管理する基本的な考え方
化学物質管理の基本となる「規制対応」「管理体制」「情報伝達」をキーワードに、エンドユーザーが求める体制や各種情報の収集方法について、担当者が悩むポイントを講師が過去の経験と今の業界スタンスに合わせて解説します。 
大阪2020年1月28日(火)、東京:2月5日(水)
[規制対応Ⅰ-1]1日丸ごと化学物質管理漬け:EUの規制(REACH/RoHS/CLP)を中心に東京:2020年2月12日(水)
[規制対応Ⅰ-2]1日丸ごと化学物質管理漬け:日米中等の規制(REACH/RoHS系)を中心に東京:2020年2月13日(木)
化学物質を規制する法規は世界的に増えています。EUのRoHS指令とREACH規則と、最近注目されている中国やアジアの規制を中心に概要を説明するとともに、EU以外の国や地域の動向や内容の違いも含めて解説します。
[規制対応Ⅱ]これからの事業所関連化学物質管理
製造事業所における化学物質管理の基礎、基本となる法規制対応、SDSの見方、管理体制の基本となる考え方等について、過去の経験や事例を含め解説するとともに、事業所の化学物質管理についてこれからの時代に合わせたやり方を解説します。
東京:2020年2月4日(火)
[実践]担当者のためのSDS/GHSラベル作成の基礎と実践
SDSやGHSラベルによる化学品情報の提供は法令で定められています。現場の管理者や担当者が実務で対応していくために知識とスキルを身に着けるセミナーです。
東京:2020年1月22日(水)、大阪:2020年2月6日(木)
[管理体制Ⅰ]評価する側から見た化学物質管理のポイント~ガイドラインに則った化学物質管理の仕組みづくり~ガイドラインに基づく管理体制の基本的な考え方や評価視点での化学物質管理のポイントについて解説するセミナーです。自社、購入先や二次取引先の管理体制の構築や、見直し、また、管理体制の評価を行う担当者が適切に指示や評価を行うためのノウハウを提供します。 
東京: 2020年2月6日、大阪:2020年2月7日
◎令和元年度 化学物質管理セミナーのご案内
新たに担当になったので基礎から知りたい、顧客からの要求を正しく理解して適切に対応したい、社内の業務をムリなくムダなくムラなく進めたい、等、様々なニーズに対応するセミナーを御用意しています。
皆さまの御参加をお待ちしています。
https://www.e-jemai.jp/seminar/chemicals.html
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◎安衛法リスクアセスメント WEBコンテンツ
コンプリートキット「実践 リスクアセスメント」
~最小の手間で最大の効果!リスクアセスメントのキモをお教えします~
内容が難しく、どこまでやればいいかわからないリスクアセスメント。でも、ポイントを押さえれば、最小の労力で、労基署立ち入りや労働者が納得する結果を出すことができます。本コンプリートキットは、延べ参加者総数1000名以上、顧客満足度90%以上のリスクアセスメント実践セミナーで使っている教材です。
詳細・お申込みはこちら
http://www.jemai.or.jp/chemicals/rouan.html
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【公募】令和2年度「資源循環技術・システム表彰」募集のお知らせ(予告)
産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センターではリデュース・リユース・リサイクル(3R)の推進および資源循環あるいはサーキュラーエコノミーの推進に寄与し、高度な技術又は先進的なシステムの特徴を有する優れた事業や取組を広く公募・表彰しています。資源循環ビジネスの普及・振興に積極的に取り組んできた貴社または貴団体からの応募をお待ちしています。
【募集期間】2020年1月中旬~2020年4月13日
【対 象 者】企業・事業団体
【表    彰】経済産業大臣賞他 各賞
【募集方法】ホームページより申請書をダウンロードいただき、指定の宛先に送付ください
http://www.cjc.or.jp(令和2年度の応募書類は1月中旬公開予定)
【お問合せ】award3r@jemai.or.jpに「令和2年度「資源循環技術・システム表彰」募集の件」として質問事項をご記入ください。
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【公募】令和2年度「リサイクル技術開発本多賞」募集のお知らせ(予告)
産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センターでは、リデュース・リユース・リサイクル(3R)に関する技術の開発に従事し、優れた研究報文又は実効のある技術報文等の発表を行った国内の大学、高専、公的研究機関、民間企業の研究者・技術者(個人又はグループ)を対象に表彰を行っています。
【募集期間】2020年1月中旬~2020年5月25日
【対 象 者】研究者・技術者
【表    彰】賞金50万円/賞状
【募集方法】ホームページより申請書をダウンロードいただき、指定の宛先に送付ください
http://www.cjc.or.jp(令和2年度の応募書類は1月中旬公開予定)
【お問合せ】award3r@jemai.or.jpに「令和2年度「リサイクル技術開発本多賞」募集の件」として質問事項をご記入ください。
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【6.編集後記】
令和2年が明けました。今年は年明け早々1月11日に台湾総統選挙が行われます。香港デモがどう影響するのか注目です。1月31日にはEUが合意したブレグジットの期限がきます。飛んで11月にはアメリカ大統領選挙と、世界史に残る1年になるかもしれません。どうか良い一年になりますように。
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◆個人情報の管理について
個人情報の管理に関しましては、一般社団法人産業環境管理協会個人情報保護方針に則り適切に管理してまいります。
当協会の個人情報保護方針および個人情報保護方針に基づく公表事項につきましては、それぞれ以下の当協会Webページをご覧下さい。
http://www.jemai.or.jp/global/privacy/index.html
http://www.jemai.or.jp/global/privacy/publication.html
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◆配信停止や配信先の変更
配信先変更・停止、ご意見等はchemicals@jemai.or.jpまでお願いします。
配信元:一般社団法人産業環境管理協会 国際化学物質管理支援センター
http://www.jemai.or.jp/chemicals/
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